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アカウントベースドマーケティング(ABM)とは|B2Bで重要顧客を狙い撃ちする考え方

2026年08月14日 ・ MonaLens

今月のマーケティングレポートを見て、複雑な気持ちになったことはないでしょうか。

リード獲得数は先月比で120%。フォーム経由の問い合わせも増えている。

数字だけ見れば、申し分のない結果です。

なのに、営業チームからは「案件の質が上がっている感じがしない」という声が漏れてきます。パイプラインの金額も、思ったほど伸びていません。

リード獲得の仕組みそのものは、間違って動いているわけではないのかもしれません。ただ、追いかけている単位が、そもそも噛み合っていない可能性があります。

こうしたズレが起きたとき、見直す価値があるのがアカウントベースドマーケティング(ABM)という考え方です。この記事では、ABMの基本と、既存のリード獲得型のマーケティングとの違い、そして始め方と陥りやすい失敗を整理します。

B2BのSaaSを運営しているPMやRevOpsの担当者であれば、一度は耳にしたことがある言葉のはずです。それでも、実際に自社でどう始めればよいかまで踏み込んで説明されることは、意外と少ないように思います。

ABMとは何か

ABMとは、個人としてのリードではなく、企業(アカウント)を最初の単位として狙い撃ちするB2Bマーケティングの手法です。

考え方自体は新しくありません。この用語は2003年に、業界団体ITSMAのBev Burgess氏らによって整理され、大口顧客を個別の市場として扱う枠組みとして広まりました。

呼び方が定着する以前から、大型商談を扱う営業は感覚的に近いことをしていたはずです。

従来型のリードジェネレーションは、まず母数を広げ、そこから見込みのある個人を絞り込んでいくやり方です。展示会で名刺を集め、ウェビナーで登録者を増やし、スコアリングで温度感の高い人を拾い上げます。

ABMはこの順序を逆にします。先に買ってほしい企業のリストを決め、その企業に所属する複数の意思決定者に向けて、そろって届くように施策を設計するのです。

なぜこの順序が有効なのか、少し立ち止まって考えてみましょう。

なぜ「個人」ではなく「企業」を単位にするのか

高単価なB2B商材ほど、契約の意思決定にはひとりの担当者だけでなく、複数の関与者が絡みます。情報システム部門、法務、現場の責任者、そして予算を握る経営層です。

担当者ひとりをどれだけ口説いても、社内の稟議を通す段になって、別の関与者の一声で話が止まることがあります。心当たりのある方も多いのではないでしょうか。

契約を決めるのは、ひとりの担当者ではなく企業という単位なのだと捉え直すと、見えてくる景色が変わってきます。

ABMは、この構図を前提に設計されています。ひとりのリードを追うのではなく、関与者全員に対して、同時期に一貫したメッセージを届けることを狙うのです。

結果として、リード数という指標だけでは測れない進み方をします。個人の反応より、アカウント全体としての前進を追う発想に近いといえます。

3つのモデル:狙う企業数によって手法が変わる

ABMは、ひとつの決まったやり方があるわけではありません。対象とする企業数に応じて、大きく3つのモデルに整理されます。

モデル 対象企業数の目安 施策の作り込み 主な手法
Strategic ABM 1社〜数社 企業ごとにフルカスタム 個別提案、経営層との対話
ABM Lite 数十社程度 業界・課題ごとにクラスター化 セグメント別メール、招待制イベント
Programmatic ABM 数百社以上 テンプレートを自動で出し分け 広告のターゲティング配信、Webの出し分け

自社の商材や顧客単価によって、向いているモデルは変わります。単価の高いエンタープライズ向けなら、少数への手厚い投資が合理的ですし、単価が中程度で対象企業数が多い商材であれば、Lite寄りの設計のほうが現実的です。

3つのモデルは、どれかひとつを選んで固定するものではありません。最重要な数社にはStrategic、その次の層にはLite、それ以外にはProgrammatic、というように、同じ企業の中で層を分けて併用している例もよく見られます。

どのモデルを選ぶにせよ、対象企業のリストを誰が、どんな基準で作るかを最初に決めておくことが欠かせません。ここが曖昧なままだと、あとの施策がどれだけ丁寧でも、狙いがぼやけたまま進んでしまいます。

Strategic ABM:1社に全力を注ぐ

Strategic ABMは、最重要アカウントを数社だけ選び、専任のチームがつく体制です。提案資料も訪問のタイミングも、その1社のためだけに設計します。

労力は大きいものの、大型契約1件の価値がそれに見合う商材であれば、投資対効果は十分に成り立ちます。

ABM Lite:似た課題を持つ企業をまとめる

ABM Liteは、業界や企業規模、抱えている課題が近い企業を数十社まとめてグループ化するやり方です。

完全な個別対応ではありませんが、業界特有の悩みに触れたコンテンツを用意するだけでも、汎用的な訴求より反応は変わってきます。

Programmatic ABM:広く、しかし狙いを絞って

Programmatic ABMは、条件で絞り込んだ数百社以上に対して、広告配信やWebサイトの出し分けなど自動化された手法でアプローチします。

一件ずつの手厚さは薄まりますが、対象を絞り込んでいる分、闇雲な広告出稿よりは無駄が少なくなります。

なぜ今、あらためて注目されているのか

ABM自体は20年以上前からある考え方です。それでも近年ふたたび語られる機会が増えているのには、理由があります。

ひとつは、ダークファネルとは?|計測できない検討プロセスとどう向き合うかで扱ったように、商談化する前の検討プロセスが、計測ツールの外側でどんどん進むようになったことです。

名乗る前に、検討はほぼ終わっている

比較サイトのレビュー、同業者コミュニティでの相談、生成AIへの質問。担当者が営業に問い合わせる頃には、候補はすでに数社まで絞られていることが珍しくありません。

こうなると、フォーム送信を待って初めて動き出すリードベースの発想は、後手に回りがちです。問い合わせが来た時点では、勝負はすでに半分終わっている、というのが実感に近いかもしれません。

先にどの企業を狙うかを決めておけば、検討の初期段階から接点を持ち続けられます。フォーム送信という一点だけに頼らずに済むのが、ABMの利点のひとつです。

広告やコンテンツを、不特定多数ではなく決めた企業群に向けて出し続けることで、フォーム送信の前から相手の視界に入り続けられます。名乗ってもらう瞬間を待つのではなく、名乗る前から関係を作りにいく発想だと考えると分かりやすいでしょう。

関与者が増え、意思決定が複雑になった

もうひとつの理由は、意思決定に関わる人数そのものが増えていることです。ひとつの契約に、部門をまたいだ5人、6人が関わることも珍しくありません。

関与者ひとりずつを別々のリードとして追いかけていると、同じ企業の中で矛盾したメッセージを送ってしまうことがあります。ABMは、この矛盾を防ぐための整理でもあります。

ツール導入だけでは解決しない

ここまで読んで、ABM専用のツールを導入すれば解決すると考えるかもしれません。実際には、ツールはあくまで実行を助ける手段にすぎません。

どの企業を狙い、何を成功と定義するかという設計そのものは、ツールが代わりにやってくれるものではないのです。ここを飛ばしてツールだけを導入すると、高機能な配信基盤を持て余すことになりがちです。

始め方:5つのステップ

実際にABMを始めるとしたら、どこから手をつければよいのでしょうか。おおまかな流れは、次のようになります。

  1. 売上や利益への貢献度が高い企業を、少数のターゲットリストに絞り込む
  2. マーケティングと営業で、ターゲットの選定基準と成功の定義をすり合わせる
  3. 対象企業の課題に合わせたコンテンツや提案を、部門横断で用意する
  4. 複数チャネル(メール、広告、イベント、営業からの連絡)を組み合わせて届ける
  5. リード数ではなく、アカウント単位の反応と商談化を指標として追う

このうち、もっとも軽視されがちなのが2番目のすり合わせです。MQLの引き継ぎ設計|マーケと営業が揉めない基準づくりで扱ったように、部門間で定義がずれたまま進むと、後になって成果の解釈で揉める原因になります。

いきなり全社で始める必要はありません。まずは数社のStrategic ABMから小さく試し、成果の出し方や社内の合意形成の勘所をつかんでから広げるのが現実的です。

3番目のステップにある「対象企業の課題に合わせたコンテンツ」も、ゼロから作り直す必要はありません。既存の事例記事や導入資料を、対象の業界向けに言い換えるだけでも、汎用的な訴求とは反応が変わってきます。

4番目のチャネルの組み合わせについては、すべてのチャネルを同時に揃えようとしないことがコツです。まずはメールと営業からの連絡だけでも、対象企業を絞り込んでいれば十分に手応えを得られます。

指標を作り直す:リードの数からアカウントの前進へ

ABMに切り替えると、これまで使っていた指標がそのままでは機能しなくなります。リード数を追い続けていては、狙いと数字がかみ合いません。

観点 リードベース アカウントベース
追う単位 個人のリード 企業(アカウント)
主な指標 リード獲得数、MQL数 対象アカウントの関与度、商談化率
コンテンツ 汎用的な訴求 業界・企業ごとに調整

ここで、仮の例を挙げてみます。数値はあくまで説明用の仮定です。

ターゲット企業50社のうち、担当者3名以上が製品ページに複数回アクセスした企業が8社あったとします。この8社を商談化の優先順位トップとして扱えば、リードの数だけを見ているときには埋もれていた動きを拾えます。

KPI定義のすり合わせ|同じ指標なのに数字が食い違う理由でも触れたとおり、指標を変えるときは、マーケティングと営業と経営陣のあいだで、新しい定義を先に合意しておく必要があります。

途中で指標だけ変えて、評価の基準はそのままにしてしまうと、現場は納得しないまま新しい数字を追わされることになります。

アカウント単位で見る、というだけで終わらせない

指標をアカウント単位に変えただけで満足してしまうケースも見かけます。大事なのは対象企業が実際に前進しているかどうかであり、単に集計の切り口を変えただけでは意味がありません。

対象企業の中で、資料をダウンロードした担当者の役職や部門にも目を向けてみましょう。現場担当者だけが動いていて、決裁権を持つ層にまだ届いていない、という状態が見えてくることがあります。

アカウント単位の指標は、個人の指標を足し算しただけでは作れません。同じ企業に所属する複数の担当者の動きを、ひとつの塊として見る視点が必要になります。

ありがちな失敗パターン

ABMは仕組みとして魅力的ですが、実際に運用してみると、いくつかの型にはまった失敗が繰り返し観測されます。特定の企業の実績ではなく、業界でよく見られる傾向として整理します。

ターゲット選定があいまいなまま始めてしまう

もっとも多いのが、ターゲット企業のリストを、なんとなくの勢いで作ってしまうケースです。売上規模だけを基準にすると、実際には自社の製品と相性の悪い企業が混じります。

過去の成約企業に共通する特徴を分析してからリストを作るほうが、遠回りに見えて結局は早道になります。行動データで精度を上げるリードスコアリングで扱った考え方は、個人だけでなくアカウント単位の優先順位づけにも応用できます。

営業とマーケティングの足並みが揃わない

もうひとつのよくある失敗は、マーケティングだけがABMを掲げ、営業側の巻き込みが不十分なまま走り出すことです。

せっかく丁寧に育てたターゲット企業に対して、営業が従来どおりの一斉アプローチをかけてしまうと、企業側は一貫性のなさに気づきます。専任チームを作るまでいかなくても、少なくとも対象企業リストと接触履歴は両部門で共有しておくべきです。

指標だけ変えて、評価制度が追いついていない

リード数からアカウント単位の指標に切り替えたのに、個人の評価はいまだにリード獲得数で決まっている、という状態も見かけます。

これでは現場が、口では新しい指標に賛成しつつ、実際の行動は変えないという矛盾が起きます。評価制度と指標は、必ずセットで見直す必要があります。

対象企業を増やしすぎて、結局リードベースに戻ってしまう

最後によくあるのが、最初は数十社に絞っていたはずのターゲットリストが、いつのまにか数百社に膨らんでしまうパターンです。

対象を広げたくなる気持ちは分かります。それでも、ひとつひとつの企業に手をかけられる余力を超えてしまえば、それはもうアカウントベースではなく、名前を変えただけのリードベースのマーケティングです。

リストを絞り込む勇気こそが、ABMを機能させる最初の一歩だといえます。

MonaLensでできること、できないこと

正直に書いておきます。MonaLensはCRMでもCDPでもないため、匿名の訪問者を特定の企業アカウントに自動で紐づける機能は持っていません。

この部分は、専用のインテントデータやIP逆引きのツールが得意とする領域です。

ただ、ターゲット企業からの訪問が特定のページに集中しているかどうかは、ファネル分析やN1分析で見えてきます。CRM側で企業を特定したあとの行動を、匿名のまま時系列で追う土台としては役立つはずです。

料金ページと導入事例ページを行き来している訪問が、ある時期に急に増えたとします。それが狙っている業界からのアクセスと重なっているなら、営業側に共有する価値のある兆候です。

担当者を特定できなくても、流れそのものは十分に意味を持ちます

ABMは、派手な新機能というより、誰に向けて何を届けるかという優先順位づけの発想です。リードの数字が伸びているのに手応えが薄いと感じたら、一度、狙う単位を個人からアカウントへ変えてみる価値はあります。

始めるにあたって、大がかりな専用ツールを最初から揃える必要はありません。手元にあるCRMとスプレッドシート、そして既存のアクセス解析だけでも、Strategic ABMの最初の一歩は十分に踏み出せます。

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