ヒートマップとは何か
ウェブサイトにヒートマップを入れると、ページのどこがよく見られ、どこがクリックされているかが色の濃淡でひと目でわかるようになります。
数字の羅列を追う分析と違い、ページの上に直接データが重なって見えるので、非エンジニアのメンバーでも直感的に読めるのが特徴です。
会議室でダッシュボードの表を睨むより、実際のページ画像に赤や青の色がのった画面を見せるほうが、関係者の納得は早いものです。
一方で、色が濃い場所がなぜ注目されているのかまでは、ヒートマップそのものは教えてくれません。
海外ではウェブ解析の定番機能として長く使われてきた手法で、日本でも近年、専用ツールを導入する企業が増えています。
とはいえ、色がついた画面を眺めるだけで満足してしまい、実際の改善にはつながっていないという声もよく聞きます。
プロダクトマネージャーであれば新機能の導線が意図どおり使われているかを、マーケターであればLPのどこで訪問者が離れているかを、ひとりで開発から集客まで担うインディーハッカーであれば限られた時間でどこを直すべきかを、それぞれ手早く把握したい場面で重宝します。
この記事では、ヒートマップの種類と、何がわかって何がわからないのかを整理したうえで、似た目的で使われるセッションリプレイとの使い分けまで、体系立てて解説します。
ヒートマップの主な種類
ひとくちにヒートマップと言っても、実際には性質の異なる複数の可視化が、この名前でまとめて呼ばれています。
代表的なのは次の3種類で、それぞれ見ているデータも、向いている問いも違います。
クリックヒートマップ
ページ内でユーザーがクリック(タップ)した座標を集計し、クリックが集中した箇所を赤や橙で、少ない箇所を青で示す、最も基本的な形です。
ボタンだと思っていない画像や見出しがクリックされている、逆に本来押してほしいボタンがほとんどクリックされていない、といった意図とのズレを発見しやすいのが強みです。
クリックできない要素に多くのクリックが集まっている場合、多くのユーザーがそこをボタンだと誤認しています。
見出しの下線や太字だけの文字列、押せそうに見える画像などは、意図せず偽のボタンになりがちな代表例です。
こうした誤クリックは、放置すると訪問者の期待を毎回裏切ることになり、じわじわと離脱率を押し上げます。
スクロールヒートマップ
ページの縦方向に、各深さまで到達したユーザーの割合を段階的な色で示します。
ファーストビューの下で急に色が薄くなるような箇所は、そこで多くの人がページを読むのをやめている合図です。
料金や導入事例など重要な情報を、実際には誰も見ていない位置に置いてしまっているケースは珍しくありません。
逆に、想定より長くスクロールされている場合は、本文が冗長でなかなか結論にたどり着けていない可能性も考えられます。
アテンション(マウス移動)ヒートマップ
マウスカーソルの動きや滞在時間を集計したもので、スマホではタップ位置に近いふるまいで代用されることもあります。
視線そのものではなく、あくまでマウスの動きから読者の注意を推定した近似値である点には、注意が必要です。
パソコンではマウスを動かさずに文章だけ目で追う人も多いため、他の2種類のヒートマップほど過信しないほうがよい指標でもあります。
三つの型を要約すると、次のようになります。
| 種類 | 見ているもの | 向いている問い | 注意点 |
|---|---|---|---|
| クリック | クリック座標の集中度 | ボタンや導線は正しく機能しているか | クリックできない要素への誤クリックに注意 |
| スクロール | 到達した縦方向の深さ | 重要な情報が見られているか | 平均値だけでなく分布も見る |
| アテンション | マウスの動き・滞在 | どこで視線が止まりがちか | 視線そのものではなく近似値 |
多くのツールでは、これらをデバイス別・流入元別などのセグメントで切り替えて表示できます。
同じページでも、広告経由の訪問者と自然検索経由の訪問者とで、注目される場所がまったく違うことは珍しくありません。
ツールの導入形態も、専用のヒートマップサービスにタグを1行追加するだけの簡易なものから、既存の解析基盤に組み込むものまで幅があります。
小規模なチームであれば、まずは無料や低価格の範囲で使える簡易なツールで型をつかみ、必要に応じて機能を広げていくのが現実的な進め方です。
ページに専用のタグを設置するタイプが主流ですが、既存の解析ツールに付属するイベント計測を使って、擬似的にクリック集中度を集計する方法もあります。
厳密な色分けの画面がなくても、「どの要素が何回クリックされたか」を集計するだけで、ヒートマップに近い気づきを得られることは少なくありません。
何がわかり、何がわからないのか
ヒートマップの一番の価値は、多数のユーザーの傾向を一枚の絵に集約できることにあります。
一方で、集約するがゆえに失われる情報もあります。
得意なこと
同じページを訪れた100人、1000人の行動を重ね合わせて見られるため、このボタンは全体としてどれくらい見られているかといった量的な傾向の把握に強みがあります。
改善前後でヒートマップを比較すれば、変更が行動全体をどう動かしたかも、一目で確認できます。
複数のページやセグメント(流入元・デバイスなど)を並べて比べれば、どの層で特に問題が起きているかも見えてきます。
例えば、モバイルのスクロールヒートマップだけ特定の見出しの手前で到達率が落ちているなら、その見出しの手前にモバイル特有の表示崩れが起きている、といった仮説にたどり着きやすくなります。
チーム内で「ここが問題かもしれない」という共通認識を素早く作れることも、地味ながら大きな効果です。
エンジニアやデザイナーに改善を依頼するとき、言葉で説明するより色のついた画面を見せるほうが、伝わる速度は圧倒的に上がります。
ファネル分析でどのステップの通過率が低いかがわかっていても、そのステップの画面上のどこでつまずいているかまでは、ファネルの数字だけでは見えてきません。
ヒートマップは、その「どこで」を補う役割を果たします。
苦手なこと
色の濃淡は多くの人がそうしたという事実は示しますが、その人が何を考えていたかまでは語りません。
なぜ離脱したのか、何に迷っていたのかを知るには、個々のユーザーの行動を時系列で追う必要があります。
複数のユーザーの行動を平均化して表示するため、特定の1人がどんな順番でページを操作したかという文脈は、集計の時点ですでに失われています。
同じ場所が赤くなっていても、その原因が情報が魅力的で読まれているのか、文字が読みにくくて何度も目が往復しているのかは、ヒートマップだけでは区別できません。
正反対の原因が同じ色として表示されてしまう、という点は覚えておく価値があります。
さらに、ヒートマップは基本的に静止画1枚での可視化なので、訪問者が途中でブラウザの拡大率を変えたり、動的に読み込まれるコンテンツがあったりすると、実際の見え方とずれてしまうことがあります。
見た目のわかりやすさに反して、解釈には一定の慣れと注意が必要な指標だと考えておくと安全です。
セッションリプレイとの違いと使い分け
この「集約」と「個別」の違いを補い合う関係にあるのが、個々の訪問者の操作を録画のように再生するセッションリプレイです。
ヒートマップが大勢の傾向を面で見る道具だとすれば、セッションリプレイは1人の訪問を線で追う道具だと言えます。
表で見る使い分け
| 観点 | ヒートマップ | セッションリプレイ |
|---|---|---|
| 見えるもの | 多数のユーザーを集約した傾向 | 1人ひとりの操作の時系列 |
| 強み | 全体像を素早くつかめる | 離脱理由の仮説を立てやすい |
| 弱み | 個人の文脈がわからない | 1件ずつ見るため全体像は掴みにくい |
実務では、まずヒートマップで異常が起きていそうな箇所に見当をつけ、その箇所で実際に離脱や迷いが起きているセッションをリプレイで数件見て確かめる、という順番が効率的です。
逆にリプレイだけを何十件も見て終わってしまうと、それが全体のどれくらいの割合で起きている問題なのか、最後までわからないままになります。
一部のユーザーだけに起きている特殊な事情を、全体の傾向だと勘違いしてしまうリスクがあるためです。
母数を意識せずに数件のリプレイだけで意思決定してしまうと、声の大きい少数派に振り回された改善になりかねません。
MonaLensでの位置づけ
MonaLensはヒートマップ機能そのものは持っていませんが、個別の文脈を追う役割をセッションリプレイと、レイジクリック・デッドクリックの自動検知で担っています。
クリックの集中よりも異常なクリック(同じ場所を連打する、反応のない要素を繰り返し押す)を自動で拾ってくれる点は、ヒートマップを毎回目視で確認する手間を減らす、別のアプローチです。
面で傾向をつかみたいのか、個で理由を知りたいのかによって、選ぶべき道具は自然と変わってきます。
導入の実務:どこに、いつ入れるか
ヒートマップは全ページに入れれば入れるほど良い、という道具ではありません。
対象ページを絞る
まず見るべきは、離脱や失注が事業に直結するページです。
トップページよりも、LP(ランディングページ)や料金ページ、申し込みフォームの直前ページなど、コンバージョンに近いページから始めるのが定石です。
すべてのページに入れて放置すると、結局どのヒートマップも見返さないまま次の施策に移ってしまいがちです。
対象を絞ったうえで、月に一度など見返すタイミングをあらかじめカレンダーに入れておくと、見て終わりを防ぎやすくなります。
十分なサンプルサイズを待つ
訪問数が少ないページでヒートマップを見ると、たまたま数人が取った行動が傾向に見えてしまいます。
判断したい最小の差分が見えるだけのセッション数が集まるまでは、結論を急がないことが大切です。
仮に1日100セッションのページなら数日分をためてから判断する、といった具合です(この日数は説明用の仮定であり、実際に必要な数はページのコンバージョン率や検出したい差の大きさによって変わります)。
セールやキャンペーンの直後だけを切り取って判断すると、普段とは違う訪問者層の行動を「いつもの傾向」だと誤解してしまうこともあります。
モバイルとデスクトップを分けて見る
同じページでも、画面幅が違えばボタンの位置もファーストビューに入る範囲もまったく異なります。
デバイスを合算した1枚のヒートマップだけを見て判断すると、実際にはモバイルだけで起きている問題を見落としがちです。
日本国内のBtoC向けサービスでは、モバイル経由の訪問がデスクトップを上回るケースも多く、モバイル側のヒートマップを後回しにしていると、大半のユーザーの実態を見ていないことになりかねません。
とりわけ料金比較表やフォームなど横幅の大きい要素は、モバイルでは折り返しや省略が起きやすく、デスクトップとはまったく違う見え方になっていることがあります。
プライバシーへの配慮
クリック座標やマウスの動きだけでも、入力内容がある程度推測できてしまう場合があります。
パスワードや個人情報を入力する欄の近くでは、収集する情報の範囲をあらかじめ意識して設計することが欠かせません。
ヒートマップから改善につなげる型
ヒートマップは眺めて終わりにすると、ただの壁紙になってしまいます。
よくある発見パターン
現場でよく出てくる発見には、いくつかの型があります。
- 重要なボタンがファーストビューの外にあり、スクロールヒートマップで到達率が急落している
- クリックできない画像や文言がクリックヒートマップで濃く光っている
- フォームの特定の入力欄の手前で、注目が集まったまま先に進んでいない
これらはいずれも、ユーザーの意図とページの設計がずれているサインです。
説明用の仮の数値ですが、スクロールヒートマップで到達率が80%から30%に落ちる境界が見つかったとします。
その境界のすぐ上に置いてある情報こそ、大半の訪問者に届いていない可能性が高い、と読み解くことができます。
同じ考え方はクリックヒートマップにも応用できます。
想定していたボタンのクリック率が低く、代わりに近くの見出しにクリックが集中しているなら、見出しをボタンに置き換える、あるいはボタンの見た目を見出しに近づける、といった2つの仮の対処案を比較検討できます。
仮説検証につなげる
発見をそのまま直すのではなく、まずなぜそう見えるのかの仮説を立て、セッションリプレイで数件確認してから手を打つと、的外れな修正を避けられます。
修正後は、A/Bテストで変更前後を比較し、ヒートマップ上の見え方だけでなく、実際のコンバージョンが動いたかまで確認して初めて改善と呼べます。
見た目の色が変わっても、成果指標が動いていなければ、それは改善ではなく模様替えです。
ヒートマップは発見の道具であって、証明の道具ではないと割り切ると、次に何をすべきかが見えやすくなります。
まとめ
ヒートマップは、ページの中で何が見られ、何が見過ごされているかを瞬時に教えてくれる、導入コストの低い可視化ツールです。
ただしそれは集約された傾向であり、なぜそうなっているかを知るには個々のユーザーを追う視点が別に必要になります。
ヒートマップで当たりをつけ、セッションリプレイで深掘りし、A/Bテストで検証する。
この三段構えを意識するだけで、色を眺めるだけの分析から、実際に成果へつながる改善へと一歩近づきます。
どの道具から始めるか迷ったときは、まず対象ページを1つか2つに絞り、ヒートマップで気になる箇所を見つけるところから着手するのがおすすめです。
小さく始めて型を身につければ、その後どのページに広げるべきかも自然と判断できるようになります。